Interview

「勤怠管理といえばジョブカン」をどう作ったか。30社中の最下位から、真っ先に思い出されるブランドになるまでの軌跡

株式会社DONUTS 石山様へのインタビュー記事のサムネイル

クラウド勤怠管理として導入社数30万社超、有料ID300万以上を誇る「ジョブカン」。市場で確固たるポジションを確立した同ブランドも、はじめは2年で導入わずか10社。競合30社以上がひしめく市場の最後尾からのスタートだった。

今回お話を伺ったのは、同事業の責任者として14年に渡りブランドを成長させてきた石山瑞樹氏。市場の第一想起を作るに至ったその徹底した市場観察とチャネルハックの全貌に迫る。


出演者

Interviewee

株式会社DONUTS 執行役員 ジョブカン統括責任者
石山 瑞樹(いしやま みずき)

2012年に株式会社DONUTSに入社し「ジョブカン勤怠管理」のサービス責任者に就任。マーケティング・制作ディレクション・営業支援・ブランディング構築など、多岐にわたる業務を兼任し、クラウド勤怠管理システムシェアナンバーワンのポジションにまで成長させる。その後、ジョブカンのシリーズとしてワークフロー、経費精算、採用管理、労務HR、給与計算など、計9サービスをリリース。

Interviewer

株式会社EXIDEA 取締役副社長 COO
塩口 哲平(しおぐち てっぺい)

新卒でコンサルティングファームのトーマツグループに入社。中小ベンチャー企業の組織開発や人材コンサルティングを実施する。その後、2015年に動画マーケティング会社の株式会社プルークスを共同創業し取締役に就任する。2017年にJapan Youtube Ads Leaderboardを受賞。EXIDEAでは、スタートアップから大企業までBtoBマーケティング・ブランディング支援を行う。


「レッドオーシャンでも戦いやすい」場所だった。市場の最後尾から始まったジョブカンと石山氏の14年

塩口 ジョブカンは、勤怠管理カテゴリーで真っ先に思い出されるブランドになっていますよね。当時、市場はどのような状況だったのでしょうか。

石山 私がサービス責任者として入社した頃の勤怠管理の競合は、その時点でもう30社以上ありました。ずば抜けて売れていたのは導入1,000社を超えていたキングオブタイムさんぐらいで、ほかはSIerさんとか、システムを作るのが好きな方が「タイムカードの代わりに打刻できますよ」と出しているサービスばかり。一方で、ジョブカンはその当時2年で導入10社。30社中で言ったら、おそらく最下位ですね(笑)

塩口 そのなかでジョブカンが伸びていった要因は、何だったのでしょう?

石山 結論から言うと「レッドオーシャンでも戦いやすい市場だった」ということに尽きると思っています。当時のクラウド業務システムの市場規模を調べたら、会計が7,000億、給与が2,000億、勤怠が300億と書いてありました。会社の導入順を考えたら、おそらく会計から入って、給与、最後に勤怠ですよね。ところが、プロダクトの作り方の難易度は逆順なんです。

塩口 詳しく聴かせていただけますか。

石山 会計や給与はルールが明確なためお客様側が合わせる部分が多く、ある程度プロダクトアウトができます。それが勤怠になると、企業ごとに働き方が全く違うのでほぼ個社対応になります。つまり、市場規模が一番小さくて、開発が一番重い領域なんですよ。

塩口 その背景だと、事業を拡げるには難しい場所に見えますね。

石山 そうなんですよ。ただ結果論ですが、先ほどの理由からかIT業界の強い競合がなかなか市場に進出してこなかったんです。だから競合は多いながらも腰を据えて戦うことができました。その間にHRテックという言葉が流行って、市場とともに事業も伸ばしていくことができましたね。

塩口 現在でこそ「勤怠管理」の代名詞となったジョブカンも、最初から市場のリーダーだったわけではなく、レッドオーシャンの厳しい競争を潜り抜けて今のポジションにたどり着いたわけですね。

タイミングを逃がさない。「やりたいと思った瞬間」を全部刈り取る設計

塩口 事業成長の裏側で、実際にはどのようなことを仕掛けていたのですか。

石山 僕はゼクシィさんみたいな立ち位置を取りたいと、最初の1、2年目で言っていましたね。結婚しようと思ったらまずゼクシィで探す、あの感覚です。実際ネットで調べてもだいたい7割がゼクシィにたどり着くらしくて、それぐらい網羅されている状態を目指しました。 

塩口 勤怠管理も、必要になって探すタイミングがありますもんね。

石山 はい。そのタイミングが来ない限り絶対に導入されないんですよ。アウトバウンドを試したことあるんですけど、1,000件当たっても、ちょうど検討中なのは1件くらい。だから「やりたい」と思った瞬間に全部ジョブカンに流れる仕組みを作ろう、という方向に振り切りました。

塩口 それを実現するために、具体的にはどんな手を打たれたのでしょうか。

石山 「勤怠管理」と調べたら全部ジョブカンが出るようにしました。具体的にはリスティング、SEO、それから比較メディア対策ですね。まずリスティングは、結構前から張り続けていました。世の中的には「SEOで1位取ったから、お金がかかるリスティングはやめます」というサービスが多いんですけど、ユーザーの検索時に必ず目に留まる仕組みを作りたくて、SEOで1位を取っているキーワードでもリスティングは並行して必ず張り続けていました。

塩口 徹底していますね。

石山 そうですね。3つ目の比較メディア対策も、「勤怠管理 おすすめ」「勤怠管理 比較」で出てくる記事の一つひとつに、全部ジョブカンを載せにいきました。全然知らないメディアでも交渉して、「勤怠管理システム5選」だったものを「6選」に変えてもらったこともあります。アフィリエイトサイトも比較サイトも、全部あたりました。結果、どの比較サイトに行ってもだいたいジョブカンが出てくる、という状態をつくりました。

塩口 リスティング、SEO、比較メディアの3層で、検索結果のどの枠でも目に入る状態を作っていたわけですね。

石山 その通りで、徹底してそこをやり切ることが獲得の差につながると考えています。

石山 特にメディアの中でも、ITトレンドさんではランキング1位を取りに行きました。実は最初に2回掲載してみたらどちらもランキング最下位で。このままだと印象も悪いので、3回目の掲載では「やるなら1位を目指そう」と決めて、とにかくサイト内ランキングで1位を取るために全部を最適化しましたね。

塩口 結果はどうでしたか。

石山 ランキング30位から3ヶ月で1位になりました。そうすると資料請求が月5件から60件になって、さらに面白いのが、ジョブカン公式サイトのPVも2倍になりました。1位を取ると、純粋な資料請求だけじゃなくてランキングだけ見て自社サイトに飛んで調べる会社も増える。指名検索のフックを作る効果もあったと感じていますね。

仕事を奪うはずの社労士 4,000社が、最強のパートナーに変わった

塩口 パートナー戦略でも、ユニークなことをされていますよね。

石山 社労士さんが4,000社、パートナーになってくださっていて、ここだけで毎月コンスタントに3桁の契約紹介が入ってきます。ただ、もともと「社労士さんにパートナーになっていただく」という発想は、業界には誰もなかったんですよ。

塩口 それはなぜですか。

石山 社労士さんは、勤怠管理の業務を代行するのが仕事の一つなんです。つまり、自分たちの仕事を奪うツールを紹介してください、とお願いすることになる。だからどこも頼めなかった。

塩口 それでも、4,000社まで広がった。きっかけは何だったのでしょうか。

石山 過去の資料請求1,000件を全部洗い出した時に、3件だけ社労士さんからの請求があったんです。しかもそのうち2件は、顧問先に紹介までしてくれていた。「これは何だろう」と思って、その社労士さんに直接話を聞きにいきました。

塩口 どんな話が出てきたのですか。

石山 社労士さんは本来、労務相談業務を月額数万円で請けたい。でもそれだけでは食べていけないから、給与計算の代行も受ける。ところが給与計算は薄利多売で、受ければ受けるほど枠が埋まってしまうという状況のようでした。紹介してくれた社労士さんは、「これからは相談業務で顧問先を増やしたい。給与計算は逆に効率化して手放したい」という考えだったんです。だったらジョブカンを紹介してもらえればそのお返しもできる。心置きなくトスアップできるじゃないですか、と。

塩口 表面的には「仕事を奪う関係」に見えたけれど、社労士さん自身が望んでいた業態シフトの本音と重ねた瞬間に、逆の関係が見えてきたわけですね。

石山 そうです。こういう、他社が絶対やらなそうなことを見つけてハックしてきたケースは、ほかにも結構あります。

すべての判断軸を”顧客の視点”に置いた。 ブランド訴求のこだわり

塩口 ブランドの記憶形成という観点でほかにも工夫されていたことはありますか。

石山 実はサービス名を変えています。2012年の時点では「JOBCAN」、英語表記でした。それを、あえてカタカナの「ジョブカン」に変えたんです。コロナ時代、社内業務にお勧めするツール10選などで並べられるときに、「Slack」「Teams」その他国内サービスもすべて英語表記であったなかで、「ジョブカン」だけがカタカナで並んでいるのを見たときは嬉しかったですね。

塩口 馴染みやすさを重視されたということですか。

石山 はい。実は導入いただいたお客様の状況を聞くと、クラウドの仕組みに不慣れであったり、現場で初めて触る方も多いようでした。もしかしたらそういう方々にとっては、スタイリッシュな英語の名前よりも、少し砕けたカタカナのほうがすっと入ってくるのではないか。そう思って、そこをあえて狙いにいきました(笑)

塩口 ユーザーに合わせたコミュニケーションを徹底されたということですね。

石山 それもあって値上げもしていないんですよね。値下げはしましたけど、過去に値上げは一度もありません。プロダクトファーストを掲げていて、プロダクトが良くてちゃんと運用できていれば解約されないはずだと。実際、カスタマーサクセスの専門チームはほぼいませんが、解約率は1%未満です。

塩口 その体制で解約率がそれだけ低いのは驚異的ですね。

石山 例えばGmailやGoogleワークスペースって、カスタマーサクセスも営業もされずに使い続けているじゃないですか。やめられないキラーコンテンツを機能に盛り込めれば、本来カスタマーサクセスは不要になります。

あとはもう、とにかくたくさんの会社に使ってもらいたいですね。勤怠管理は従業員全員が毎日打刻しますので、使われれば使われるほどジョブカンの認知は上がっていく。一番のブランディングは、ユーザーを身近で増やし続けることだと思っています。

顧客の解像度が、すべてを決める

塩口 改めてお伺いして感じるのは、顧客が誰かという定義が明確で、そこに対する見せ方やチャネルがシンプルに一貫していらっしゃるということです。

石山 顧客の解像度は高いかもしれないですね。ジョブカンを始めた頃、最初はシフト管理にお困りの飲食店がお客様として多くて、そこから別の業界や、従業員規模の大きな企業も増えてきました。そうした変化に対応してLPも試行錯誤を重ねていきましたが、シフト管理ができることや初めて使う方にも優しい機能構成など、お客様がジョブカンのどこを評価してくださっているのかは意識するようにしていますね。

塩口 ユーザーの生の行動から課題を拾って先に仕掛けていくというのが一貫していますよね。顧客の解像度が高いからこそ、次の一手が見える。

石山 そうですね。ほかにもリスティングの文言一つとっても、お客様がどういう言葉に反応するかを見て変えています。かっこいいメッセージよりも、「業界の実績」「シンプルな機能」「豊富なサポート」「無料」、そういう当たり前の言葉のほうが、初めてツールを選ぶお客様にはちゃんと届きますよね。

塩口 徹底的に顧客の解像度を上げて、そこに合わせた言葉とチャネルを愚直に積み上げる作業なんですね。そのためなら他社が絶対やらない一手も見つけ出してハックする、その執念こそがジョブカンの強さだと、改めて感じました。本日は本当に勉強になりました。ありがとうございました。

カテゴリーブランディング白書

本インタビューは、ブランド想起の影響に関する弊社独自の調査企画「カテゴリーブランディング白書」と連動して掲載しています。

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